クリスマスの夜に





「♪ジングルベ〜ルジングルベ〜ルすずが〜なるぅ〜」


 メカ皆本ハーマイオニーVer.1.5(以下、メカ皆本)は、楽しげにツリーの飾り付けをするメカ賢木ハーマイオニー(以下、メカ賢木)とメカ兵部ハーマイオニー(以下、メカ兵部)を満足そうに見ながら、今し方出来上がったばかりの料理をテーブルに並べた。
 世の中に秩序を。
 人間達の思い通りにはならず、全て己の自由意志によって行動する。
 どうやら今日はクリスマスと言って、この国ではツリーを飾り、ご馳走を食べてプレゼント交換をしたりするらしい。
 メカ皆本達が隠れ潜んでいるこのバベルで働く人々も、心なしか朝から浮き立っているように見える。ただ、年末ということもあり、普段より事件発生率が高かったりと何かと慌ただしくて浮かれてばかりもいられないのも実のところで。
 そこで、メカ皆本は考えたのだ。
 折角のクリスマス、パーティーのセッティングをして人間を驚かせてやろうと。言わずもがな、自由意志でだ。
 着々と準備が進む中、こっそり持ち込んだオーブンがケーキが焼き上がったことを知らせた。
 早速それを取り出したメカ皆本は、いそいそとデコレーションの材料を整え始める。用意したのは、ふんわりと丁度良い具合に泡立てた生クリームに真っ赤に熟れた美味しそうなイチゴ。
 殊の外上機嫌に作業するメカ皆本に気付いて、いつしかツリーの飾り付けを終えた2人が不思議そうに近付いてきた。
 ケーキ全体へ斑無く生クリームを塗りたくる彼の手元を覗き込み、上部にも均等に搾っていく様子を暫く眺めては感心したような半ば呆れたような目で見守る。
 メカ皆本は幾つものイチゴを見栄え良く飾り付けると、仕上げとばかりに「Merry Christmas」と書かれたプレートを真ん中に置いて身を起こした。
 メカ賢木とメカ兵部が見上げた視線の先では、それはそれは達成感に溢れたいい表情。労働は素晴らしいとでも言いたげに、薄らと額に滲んだ汗を拭ったりしている。
「……おまえ、職人になれるぜ…」
「同感だ」
 完成したケーキはまさにパティシエ顔負けの出来映え。つとテーブルに目を移せば、所狭しと並べられたご馳走の数々。
 自分達がツリーを飾っている間、1人でこれだけのものを作ったメカ皆本を再度見上げた小さなマイオニー達は、こいつの元になった「皆本」って奴は一体何者なんだ…と密かに戦慄いた。
「さあ、これで準備は整った。人間どもの驚く顔が楽しみだぜ」
 沢山のオーナメントと電飾が施されてキラキラと煌めくツリーに、目にも鮮やかなご馳走とチキン、イチゴをふんだんに使ったケーキもある。完璧だ。
 確認するように部屋の中を見回し、ククク…と人の悪い笑みを浮かべる。
 後は物陰からこの光景に驚く様をゆっくり観察するだけ…とほくそ笑む彼は、気配を殺して忍び込んできた影に気付いていなかった。
「メリ〜クリスマ〜ス」
「ひぇっ!?」
 突然、後ろからうっそりとした声を掛けられて3人同時に飛び上がる。
 肩を竦め、恐る恐る振り返れば、口元を引き吊らせたメカ賢木そっくりの――…否、本物の賢木修二と、その後ろで呆然としている皆本光一の姿があった。
「賢木……これは……」
「この間話しただろ。いつの間にか、またメカ皆本ハーマイオニーが復活してたんだよ。しかも、今回は仲間まで作りやがってて…」
 言いながら、ふるふると震えてどんな仕掛けなのか涙を浮かべつつ傍らの兵部(マイオニー)と抱き合い見上げてくる自分そっくりのマイオニーを何とも言えない眼で見やり、顔面蒼白のメカ皆本を一瞥する。
 以前のハーマイオニーより幾分か生意気な顔つきではあるが、怯えて身を縮めている様子はまるで迷子の子どものようで、何だか可哀相になってくる。苛めてる気さえしてきて賢木は口を噤んだ。
「……これは君達が?」
 一方、皆本は室内をぐるりと見回し、身を寄せ合いながらこちらの一挙一動を目だけで追っていたマイオニー達に問う。
 膝を折り、視線を合わせて優しく微笑む彼に3人は一度顔を見合わせて。戸惑いながらもそろそろと頷いた。
「そうか…。じゃあ、皆でパーティーをしよう」
「え…っ?」
「お、おい、皆本っ?」
 にっこり笑んで、取り皿に料理を取り分け始める。
 呆気に取られたマイオニーズが驚愕の声を上げ、唖然と賢木が声を掛けても意に介さず、皆本はどこまでもマイペースだ。
 器用に数種類の料理を乗せた皿を差し出され、思わず受け取ってしまってから賢木は我に返った。
「いや、ちょっ…、皆本!?何考えてんだ?」
「何って、折角だからパーティーをしようかと。ほら、賢木。早く食べないと冷めちゃうよ?」
 渡されたフォークもつい受け取る。
「パーティーって、……っつーか、おまえ…何とも思わねぇの…?自分とそっくりな顔した奴が猫耳付けてメイド服着てるんだぜ!?」
 前はあんなに怒っていたのに…と続ければ、皆本は困ったように笑った。
「面白半分であんなものを作られた僕の気持ちがわかったか?」
「へっ?あ……う、う……ん…まぁ…」
 わかりたくもなかったけどわかった。
 しかし、皆本はまだ似合う(と思う)から良いが、自分のは一体何だ…罰ゲームか…しかも何でロリなんだよ…と、改めてメカ賢木を上から下へとしげしげ眺めてげんなりする。
 そのまま虚ろな瞳で手にした皿を見下ろし、力無くフォークをチキンに突き刺し口に運んだ。

「…あ、」

 美味い…。

 これもあの皆本ハーマイオニーが作ったのだろうか。
 自分のと兵部のハーマイオニーはともかくとして、もし、メカ皆本が処分されてしまうことになったら…とチラッと思った賢木は、不意に背後から聞こえてきた言葉に、危うく咀嚼中のチキンを吹き出しそうになった。
「それにしても、この賢木ハーマイオニーは可愛いなぁ…。クリスマスプレゼントに貰いたいくらいだよ…」
 どうにか口の中のものを飲み込んで振り向けば、彼らにも皿を手渡していた(食べられるのかは謎だが)皆本が、ふとメカ賢木の顎に指を掛けて見つめていて。
 その熱っぽい視線を正面から受けたメカ賢木は、ほんのりと頬を染めて瞳を揺らめかせていた。…だから、一体どんな仕掛けで(略)
「……っ!バ、バカ、皆本!そんな紛い物より俺の方が……っ」
「え…?」
「あっ……え…っと…」
「君の方が……なに?」
「そ…、その……お、れの方が…」
 殊更嬉しげに振り返った皆本を見て、賢木は自身が口走ってしまった内容に遅ればせながら気付いて言葉を濁すも後の祭り。
 皿を持ったままうろうろと目を泳がせる賢木の手からそっとそれを取り上げると、皆本は上気した頬に軽く口付けた。ぎゅっと腕の中に閉じ込めて、色付いた耳元に囁き掛ける。
「妬いたの?」
「バ、バカ言ってんじゃねぇよっ!何で俺があんなくだらねぇモンに…っ」
「賢木ハーマイオニーは君がモデルだもの。君が一番可愛いよ」
「…っ、言ってろバカ…!」
 強気に喚いてみても、真っ赤になった顔では全く迫力が無い。その上、皆本に抱き締められ、あまつさえ耳に息を吹きかけられたら一気に力が抜けてしまう。
 堪らず彼の服を掴むと、近くで微笑する気配がした。
「ふふ…君は本当に可愛いね」
「〜〜〜〜〜っっ」
 賢木本人があのコ(メカ賢木)と同じ格好をしてくれたら最高なのに。
 そんな不埒で恥ずかしいことを考える優秀なはずの頭をペシッと叩いて、賢木はいきなりいちゃつき始めた2人をポカンと見ているマイオニーズ達にこそっと目をやった。
 今日、ここへ皆本を連れて来たのは、彼らをどうするか自分1人では判断しかねたから。
 取り敢えずは、問答無用で処分されることも無いだろうと安堵する。
 皆本と同じ顔のマイオニーがどうこうされるところなんて見たくなかったし、やはり自分と同じ顔したロボットを…というのも何だか気分が良くない。

 ただ、これを他の職員やチルドレン達に見られるのは嫌だなー…とか、些か複雑ではあるのだけれど―――。


 とにもかくにも、メリークリスマス!




END





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送