non sugar





 月の満ち欠けは人間のバイオリズムと関係していると聞いたことがあるが。こいつのそれもそういった類なのだろうか。
 普段物腰柔らかな皆本が、夜になると昼間とはまた違った雰囲気を纏う。
 正確には、「ベッドの中」で。
 一本筋の通った芯の強さを持っている彼は確かに優しいばかりではないが、それにしたって変わりすぎじゃないかと思う。
 きっと、潜在的にSっ気があるんだ。そうに違いない。ちくしょう…羊の皮を被った狼かよ…。
 今だってほら、俺をシーツに押さえつけて、服を剥ぎ取った裸体を隈なく見下ろしている。舐めるような視線が居た堪れなくて、俺は彼に両腕を捕まえられたまま、獲物のような心境で僅かに身動いだ。
 そうすれば、すかさず足の間に体を割り込ませて動きを封じ、ゆっくり上体を倒して俺と胸を合わせる。間近に迫った皆本の吐息が顔に当たって、俺は思わず熱い息を漏らした。
「賢木、どうしてほしい?」
 やんわりと微笑みながらの問い掛けは、表情と相異なって非常に可愛げが無い。
「どうって…」
 言い淀む。ピタリと密着した身体、焦らすように唇を擽る吐息。こんな状態でそんなことを聞いてくる皆本に目を眇める。そんな俺に皆本は微笑を崩さない。それどころか、片手で俺を押さえ込みながらもう一方の手を身体のラインに沿って緩やかに下ろし、内腿をさわりと撫で上げた。
「…っ」
「ね。どうしてほしい…?」
 ヒクッと引き攣る大腿に、わかっててやっているこいつは笑みを深める。その表情はとても楽しそうだ。
 正直、この野郎と思わないでもない。だけど、何も言わなければ俺の情欲を灯す箇所を中途半端にあちこち弄られて、心身ともに煽られるだけなのだと知っている。我慢出来なくなった俺が震える唇で懇願するまで続けられる責め苦はあまりに甘く、ともすれば叫び出しそうになる程。
「……、さ…」
「ん?」
 消え入る声に皆本が瞳を傾ける。俺は生唾を飲み込んだ。
「……触って…」
「どこを?」
 言い躊躇って口を噤む。暫し逡巡した俺は、宙を彷徨わせていた視線を皆本に戻した。そして、執拗に下半身を嬲るも肝心なところには全く触れようとしない意地悪な手を掴み、言葉の代わりにそっと脚の間に導いた。
「ここ…」
 掠めるように触られただけで腰が跳ねる。皆本の指が絡んだ瞬間、俺のそこが待ち侘びたように先走りの涙を零した。
「は…、ふぅ…」
「凄いね、賢木。ちょっと触っただけでこんなだよ…」
 そんなに触ってほしかったの?と優しく笑う。耳朶を甘噛みされ、反らせた喉に口付けられた。
「言う…なっ…、バカ…っ…あっ、あぁ…!」
 俺の希望通りに愛撫する手が上下に動く度、溢れ出た粘液が淫猥な音を立てる。耳に纏わりつくそれがやけに大きく響いて、俺は堪らず頭を振った。
 身体を駆け巡る快感と聴覚からの刺激に、だんだんと頭が麻痺してくる。もっと気持ち良くなりたくて、沢山触ってほしくて、足が自然と大きく開いて行く。もう目を開けていられない。皆本の手の動きに合わせて腰を振れば、あいつがクスリと笑んだ気配がした。忙しなく呼吸を繰り返す唇が、不意に柔らかく塞がれる。温かな呼気が口腔内で霧散した。
「う…ん…っ」
 薄眼を開けて見たら、すぐ目の前に皆本の顔。近すぎてよく見えなかったけれど、思いの外長い睫毛に見惚れて暫く見つめていると、気付いた彼が咎めるように舌を俺の中に潜り込ませ。あっという間に俺のそれと絡めると、自分のテリトリーへ引き摺り込んで軽く歯を立てた。思わず目をきつく瞑る。
「んんぅ…!」
 全身を痺れが走る。未だ皆本に掴まれたままだった両手が解放される。自由になった腕を彼の首に回すと、彼も同じく自由になった手を俺の肌に滑らせた。ぽつぽつと俺の性感帯を確実に突く勤勉な指先は、働き者の舌が唾液を量産させている間もなお、俺を煽り続けていた。
 強弱を付けて握っては、先端を親指で抉るように円を描いて押さえ付ける。ゆったりとしたストロークを繰り返したかと思えば、激しく一気に扱き上げる。皆本の手淫と舌技に翻弄され、俺はキスを振り解くと、乱れた呼吸を整えるため大きく息を吐いた。距離を取った口唇を、まだ足りないと皆本が追い掛けてくる。お互いの唇は既に唾液に濡れ、飽くことなく何度も重ねられるそれが漸く離れたのは、名残惜しげな舌先同士を銀糸が繋ぐ頃だった。
「はぁ…は…っ…ん、あ…」
「…賢木」
「……ん…」
「もうそろそろイキたい…?」
「…うん…」
 熱の篭った瞳に覗き込まれて素直に頷く。
 皆本は俺自身から手を離すと、俺の愛液でベタベタになった手を持ち上げて見せつけるように舐めた。毎回「美味くねぇだろ、やめろよ」と言っても、「賢木のは特別」とか脳みそが沸いてるとしか思えない返答をするから言うのはやめた。だけど、どうしたって感じる羞恥心だけは拭えきれない。しかも、眼鏡の奥の瞳が俺を見つめて挑発的に細められるから、何だか見てはいけないものを見ているようでゾクゾクしてしまう。丁寧に精液を舐め取る仕種に、とっくに限界を迎えて疼く下腹部が更に熱を持った。
「ちゃんと言葉で言ってほしいな」
「……イ…キたい……みなもと…もう、イカせて…っ」
「どうやってイカせてほしいの?手?それとも……口?」
 言いながら、再びこれ見よがしに唾液と精液に塗れた指先を一舐めされて、最早焼き切れる寸前だった俺の理性は呆気なく散った。なまじ気持ち良いことを知っているとダメだ。より一層の快楽を求める本能には到底勝てず、恥ずかしさに眉を顰めながらも発した言葉に、あいつは殊更嬉しそうに微笑った。


 僅かに開いたカーテンの隙間から、細く差し込む月の光が暗い室内を青白く照らす。
 今日の月は何だったかな…などと考えながら、俺は皆本が生み出す快楽の波に次第に溺れて行った。



END





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