「…俺、工藤のことが好きや。友達なんかとはちゃう意味で、やで」 「…………」 はっきりとそう名言した彼。意を決したような表情。グッと膝の上で拳を握って真っ直ぐ俺を見つめる瞳。 その言葉を聞いた瞬間、俺は思考回路が停止してしまったかのように、全ての動きが止まった。静寂が辺りを支配する。 いつまで経っても何も言わない俺に、服部は次第に強い光を湛えていた瞳に一抹の不安を滲ませ始めた。直に座っていたフローリングから腰を上げると、俺が座っているソファまで這うように寄って来て、再度口を開く。 「なぁ……俺、一世一代の大告白したんやで?何か言うてや、工藤…」 膝に手を掛けられ、一寸の曇りの無い瞳に見上げられて。 俺は乾いた喉を潤すように口腔内を舐めて唾液を嚥下した。 「……本気か…?」 僅かに掠れた声で問い掛けると、コクリと頷く。いつも自信に満ちている瞳が、俺の思考を読み取れずに揺れているのがわかる。 俺は瞳を伏せた。 「……違うよ、服部。おまえのその感情はそういう意味じゃない」 「な…っ!そないな意味ちゃうって、どういう意味やねん!?」 小さく呟いた言葉に、服部が瞳を見開いて抗議する。自分の感情を否定されれば、誰でも良い気持ちはしないだろう。目の前のあいつも例外ではなく、特に服部は普段から血の気が多かったりしたから…と考えて微苦笑し、憤慨する彼に頭を振った。 「だから。おまえは最初、ライバル心から俺に会いに来て、そして子どもの姿になっていた俺と出会っただろ?俺の事情を知って何だかんだと一緒に行動する内に、俺に対する同情心を恋愛感情と履き違えただけだって…」 「ちゃう!!俺はおまえに同情とかしとらへんっ!!そんなんやなくて、俺はホンマにおまえのこと……っ!!」 「違わねぇよ。おまえ、いい加減気付けよ」 「ちゃう……ちゃうって、工藤………頼むから、俺の話聞いてや…」 取り付く島も無いといった俺に首をふるふると力無く振りながら、切羽詰ったような目で縋り付いて来る。切なげに顰められた眉に焦りが覗く。 なんで…。 なんで、そんなに必死な顔してるんだ。なんで、泣きそうな顔してるんだよ、おまえ…。 おまえのために言ってるんじゃねぇか。俺なんかとそういう関係になったら、悲しむ人が沢山いるだろ。困るのはおまえなのに……。 脳裏に浮かぶのは俺達の周りにいる優しい人達。その中で、互いの幼馴染みが顔を歪めて泣いている場面がちらつく。服部の両親が厳しい顔つきでこちらを見ている。それを真正面から受ける服部が、唇を噛み締めて耐え苦しむ姿がよぎる。 不意に、服部の手が頬に触れて我に返った。彼に目を移すと、寄せた眉をピクピクと小刻みに痙攣させながら俺を見つめているあいつと目が合った。 「何、おまえ……泣きそうな顔してるんや…」 「…え……?」 慌てて目を擦ろうとする俺の手を遮って、服部が俺の髪をそっと撫でる。自分こそ瞳を揺らめかせて泣きそうなのに、あいつは必死に笑顔を浮かべて。そのまま頭を抱き込まれた。 「大丈夫や。俺はずっとおまえの傍におるから…。せやから、何も心配せんでええで……」 「服部……」 おまえはそれで良いのか…?他の人達を切り捨てても、俺と共にあると言うのか…。 慈しむように頭を抱かれたまま、おずおずと彼の身体に手を伸ばす。ぎゅっと抱き締めてみて、俺は溜め息を一つ吐いた。 もしかしたら…俺は、こいつが傷つくのが怖かったんじゃなくて、そんな彼を見ることで自分が傷つくのが怖かったのではないのか。 周りを切り捨てられずに縋り付いているのは俺の方。服部はこんなにも強いのだから…。 服部の胸に顔を埋めると、微かに日向の匂いがした。確かに感じる彼の体温と匂いに安堵する。 不器用でごめん。狡い奴でごめん。 本当は、おまえの気持ち、痛い程わかっていた。ずっと前から。一心に向けられる視線が凄く嬉しかった。 顔を上げれば、少し身体を離してあいつも見下ろしてくる。柔らかく微笑んでくれる。 その笑顔が大好きで、何ものにも変え難くて。 なぁ…。 おまえがこうやって抱き締めてくれるのなら、もう俺は自分の気持ちに嘘を吐かなくても良いのかな…。 おまえが隣で笑っていてくれさえすれば、俺も強くなれるような気がする。 ならば、なかなか言葉に出来無い俺だけど、精一杯この心を曝け出すよ。 強く、強く抱き締め合って。互いの鼓動を感じ合って。 瞳を閉じて、胸の中の愛のクロスに誓う。 これからの未来、永遠におまえだけだと…。 |
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