初出し同人誌1999.11.23

「何で……こないなことになってしもたんやろ………」
気だるそうに寝転がったまま、見慣れた天井を見つめる。




「こんにちはー。工藤、おるか?」
 賑やかな声と共に、遠慮なく玄関の扉が開かれる音がする。今まで静寂に包まれていた空間を予告なしに打ち破り、割り込んできたその声に新一は閉じていた瞳を開け、あからさまに嫌そうな顔をした。鬱陶しそうに前髪を掻き揚げ、ベッドから身を起こす。そうしている間にも、階段を上ってくる軽い足音が他には誰もいない静かな家に響いていた。
 その音が、ピタリと部屋の前で止まる。
「工藤?おるんやったら出迎えくらいしたってや」
 無遠慮な突然の来訪者はそんなことを言いながら、扉を開けて顔を覗かせた。
 そこには、見るからに不機嫌そうな新一がベッドの上がいた。
「…何や。えらい機嫌悪そうやな。どないしたん?」
「おまえが来たからだ」
 不思議そうに首を傾げながら入って来た平次に、間髪入れずにきっぱり言い放つ。ついこの間まで事件続きで殆ど寝ていなかった新一は、寝不足で痛む頭を押さえて平次を真っ直ぐ見た。これからゆっくり眠ろうと思っていたのに、邪魔をされたことが気に入らなかった。平次が突然来ることには慣れていたし、彼がわざわざ会いに来てくれることは決して嫌なことではないのだが、物事にはタイミングというものがある。
 それでも、新一にそう言われてもめげない平次は、背負っていたバッグを床に置き、少し拗ねたように口を尖らす。
「何やねん、その言い草。折角おまえに見せたろ思うて、はるばる大阪からコレ、持って来たっちゅーのに……」
 そう言いながらがさごそと荷物をあさって取り出したものは、若者向けのファッション雑誌。はっきり言って女のコ向けのそれは、ファッションの他にも毎月アイドルなどのインタビューも掲載している。
「おまえ、そういう趣味があったのか?それに、雑誌なんてこっちにだって売ってるぜ」
「アホ!趣味ちゃうわ!!これは工藤に見せたいと思うて、俺が大阪で買うて来たんや」
「俺はそんなの見たかねぇよ」
 見覚えのあるその雑誌と、それを買った時の平次の様子を想像して新一は尚一層、眉間にしわを寄せた。
「ああぁ〜〜っっ!!そないな顔したらあかん!!!ええ顔が台無しやんか〜!!」
 誰がそういう顔させてんだよ!と、情けない声を上げる平次に心の中でツッコむ。そして、再び彼が手にしている本に視線を落とした。
 2ヶ月前、某女性向け雑誌のライターから電話があった。今度、高校生探偵として活躍していて、女性ファンも多い新一のインタビューを掲載したいので時間が取れないか、という内容のものだった。
 依頼は依頼でも、事件ではなく取材の依頼。当初新一はあまり乗り気ではなかったが、どうしてもという相手の勢いに負けて引き受けたのだ。簡単に終わらせるから、と言われてたのに写真を数枚撮られ、いつの間にか8ページにも及ぶ大特集(?)となってしまった。それが載っているのが、今平次が持って来たという雑誌だった。
 しかも目に付いた表紙にはデカデカと『どんな難事件も華麗に解決!高校生名探偵・工藤新一くん独占インタビュー!!』なんて文字が、見たくなくても目に入ってしまうくらい大きく印刷されている。
 恐らく、いや絶対平次はコレを見て嬉々として買ったのだろう。満面の笑みで女のコのファッション誌を嬉しそうにレジに持って行く男子高校生…。正直言って……怖すぎる…。
 顔を引き攣らせながら黙り込んだ新一を気にするでもなく、平次は幸せそうに雑誌を捲っていく。そして、彼の指がお目当てのページを見つけて止まった。インタビューと一緒に載せられたグラビアにうっとりしながら、見ろとばかりに本人の鼻先に差し出す。
「めちゃめちゃカッコええなぁ〜vv惚れ惚れするわ。コメントも、さすが工藤って感じやし」
 自分の世界に浸る平次を上目遣いで見てから、改めて差し出されたページに視線を移す。そしてふと、ページの端に目が行った。ここだけやけにヨレヨレになっている。平次が何度も見たという証拠だ。
 新一の表情が微かに変わる。こういうのを目にする度、平次の自分に対する 好意に少々頬が緩んできてしまう。普段はポーカーフェイスの新一だが、1度緩んだ顔を元に戻すのは大変だ。そんな自分を平次に気づかれないように、新一は雑誌をベッドに置くと、そのまま見るふりをして俯いた。
 そんな時、平次が「あ!」と思い出したように声を上げ、再び雑誌に手を伸ばした。
「そういやなぁ、もう1ヶ所おまえが載ってるトコあるねん。……えーっと…、あ。ここや」
 雑誌を捲る平次の手の間から現れたのは、『何でもランキング』という読者のページだった。前号で発表されたアンケートに読者が回答するこのコーナーには、色々な質問と一緒に様々な有名人が写真付きで載っていた。ありふれた「弟にするなら?」などというベターな質問から、「○○に凝ってそうな有名人」なんていう、読者の想像(妄想)による回答まで、見ていて飽きない内容だ。
 新一も「へぇ。コイツ、結構人気あるんだ〜」という、冷やかしまじりな気持ちで暫く眺めていたが、ある質問のところで目線が釘付けになった。釘付けになったというか、動けなかった。だって、それは……。
「な。意外やったやろ?俺も初めびっくりしたわ。凄いやんな、工藤vv」
 隣に座った平次が、新一の手元を覗き込みながら楽しそうに言う。
 新一の視線の先には、思わぬところに見つけてしまった自分の顔。そして、その質問とは…『抱かれたいと思うカッコ良い男のコ』。見事ランクインしてしまった新一は、何と第1位。喜んでいいのかどうしていいのかわからない。自分がそう見られていたという、ある種の失望感に似た感情と、やっぱり男として少なからず嬉しいという気持ちと、照れくさい気持ち。色々入り混じって複雑な心境だった。
 何と反応していいのかわからない新一の耳に、平次の無邪気な声が入ってくる。その瞬間、自分でもよくわからない怒りのような感情が、身体の奥からふつふつと込み上げて来た。
 自分のこの結果を平気で見せる平次。多分、本当にそう思っているのだろうが「凄い」と連呼する彼に、なぜか苛立っている。
 だから、彼に素っ気無い態度を取った。(照れ隠しも少々あったが…)
「別に、こんなので1位になったって意味ねぇだろ。俺、そういうのに興味ねぇし」
「え?興味ないって、こういうアンケートがか?」
「違うよ、バカ。SEXにだよ」
「えぇ〜〜〜〜っ!!?」
 それを聞いた平次は大袈裟なまでに驚く。そして、次に彼が口にした言葉が、新一の中の何かを切った。
「く、工藤ぉ〜!!それはおかしいで!!そんなん、健全な男子高校生やないでぇ!?」
「…………」
 信じられないと尚も続ける彼の手を、新一が不意に掴む。ちょっとふざけすぎたかな、と少し反省しながら顔を上げた平次の瞳は新一の冷ややかな視線とぶつかり、そのあまりにも壮絶なきつい色合いに息を呑んだ。
 暫しの沈黙。2人して黙ったまま見つめ合い、時間だけが過ぎていく。
「……おまえも、そう…思うか?」
 沈黙を破ったのは新一だった。どこか意味深な、言われた言葉の真意を図りかねて平次は困ったように見つけ返す。しかし、新一の瞳ははっきりとした返答を要求していた。平次は戸惑いながらも、思ったことを素直に口にした。
「思う…で……」
「……本当に?」
「何やねん、一体…。ホンマや。俺かて健全な男子高校生やで。そんなん、当たり前やん……」
「…そうか」
 平次はこの時気づくべきだった。一見成り立っているように思える会話だったが、互いの核心が大幅にずれていたことに。核心…。新一の言葉には主語がなかったのだから。
 新一は静かに身じろぐと、掴んでいた平次の腕を引っ張った。
「!?」
 突然のことに体勢を崩した平次は、ベッドの上であっという間に新一に組み敷かれる。何がなんだかわからない彼は、とにかく起き上がろうと上にいる新一を押しのけようと肩に手をかけた。しかし、新一はその手を一気に掴み上げると、尚も平次に圧し掛かって動きを封じ、両手を頭の上に押さえつける。
「は、離せや!工藤っ」
 完全に混乱してしまった平次に、新一がゆっくりと顔を近づけていく。互いの唇が触れ合う寸前で止め、じっと平次を見つめる。至近距離で見る新一は眩暈のする程格好良くて、しかも平次の唇に新一の吐息がかかり、ぼーっとなった平次は思わず瞳を閉じた。
 新一がまるでスローモーションのようにゆっくりと、再び顔を寄せていく。
「……っ!んぅ…………っっ」
 新一は徐々に角度を変えながら、平次の柔らかい唇の感触を味わう。
 啄ばむように口付けられて、平次の頭は尚更混乱していく。平次は今、自分が一体何をされているのか理解できないでいた。ただ、すぐそばで感じる新一の息遣いと唇に触れる柔らかな感触を、無意識のうちに追いかけていた。
 少しの間、触れるだけだった新一の唇の間から赤い舌が覗く。それは生き物のように平次の唇に僅かな隙間を見つけ、中に入っていった。
「!んんっ…!……ふ……ぁっ………」
 突然侵入してきた湿った感触に平次の身体が震える。口腔内で好き勝手に動き回る舌に捕まらないように必死で逃げ回るが、どんどん逃げ道を塞がれ、追い詰められてしまう。
 新一はようやく捕まえた平次の舌に絡みつき、敏感な裏側を舐め上げる。小さく身震いする彼に気を良くし、新一は飽きることなく平次の唇を貪った。
 舌と舌とが絡み合う度に、湿った音が重なり合ったそこから聞こえ、平次は羞恥に頬を染めた。
「は…あ……」
 長く執拗な新一のキスからようやく解放された平次は、ほぼ酸欠状態だった肺に酸素を送り込もうと、深呼吸を数回繰り返した。何回か繰り返して幾分落ち着いたのか、改めて相変わらずドアップな新一に先程の行為を思い出し、見る見るうちに顔を上気させ、思い切り彼を睨みつけた。
「く…っ、工藤!!おまえっっ……!!何さらすんじゃ!!人からかんのも大概にせぇよ!!」
 耳まで真っ赤に染め、一生懸命睨んでいる彼に新一は心外だとでも言いた気な顔をする。
「何だよ。おまえさっき、『そう思う』って言ったじゃねぇかよ」
「はぁ…?」
 新一の言う意味がわからず、少々間の抜けた返事をしてしまう。
 確かに、「思う」とは言ったが、そのことがなぜここで出てくるのか。自分が言った科白を思い出してみる。新一に聞かれた時、「この年でSEXに興味がないのはおかしい。健全な男じゃない」という意味の返事しかしていないはずだが…。
「おまえも俺に『抱かれたい』と思ったんだろ?」
「……は…?」
 わけがわからない。新一は何を言っているんだろう…?
 暫くの間、思考回路が停止してしまったかのように固まってしまった彼は、次の瞬間、はっとしてニヤニヤしている新一の顔を見た。
 これは、つまり…互いの主語が違っていた??
 彼の真意を読めなかった平次は、まんまと彼の策に嵌ってしまったのだ。


  『おまえもそう思うか?』この雑誌に回答を送った女性たちのように。
  俺に抱かれたいと思うか?


 今頃それに気づいても遅かった。
 もし、彼のことを何とも思っていなかったなら、「そんなん反則や。冗談はよせ」と言えたかもしれない。でも、俺は……。
 新一は平次が意味を理解したのを見て取ると、俯いて小刻みに震えている彼の顎に手をかけた。そのまま持ち上げ、綺麗な瞳を覗き込む。
 黙ったまま見つめる新一の瞳を見ることができず、平次は不器用に目線をそらせた。
「……おまえは…こんなことして楽しいんか……?俺とこんなんして…ただの、遊びで……っ…あんなこと、できるんか………」
 知らず、瞳に涙が溜まりだす。悔しくて悲しくて。瞬きをした途端、それは音もなく静かにシーツの上に流れ落ちた。
「は…っとり……?」
「……俺は…、こんなん嫌や!遊びでなんかでけへんし、それに工藤にも、そんな気持ちでやってほしくないねん!!」
 気持ちが昂ぶり肩で息をして、一気に言ってから自分が今口走ってしまった内容に気がついた。自己嫌悪に陥る。自分は、新一のすることに口出しできる立場ではない。第一、男同士で何を言ってるんだ。そんなの、冗談に決まっているのに。察しのいい新一は気づいてしまったかもしれない。ずっと、心の奥に隠していた、報われることのない想いに。
 それは「俺は工藤が好き」だと言っているようなものだった。
 取り返しのつかない言葉。新一はどんな反応をするのだろうか。その綺麗な顔を歪めて、気持ち悪いと吐き捨てるのだろうか……。
 平次は、押し潰されそうな気まずい空気に耐えるように、両目をぎゅっと瞑った。
 新一は呆然と平次を見ていたが、暫くすると柔らかく笑い、目を閉じてしまった彼の頬にそっと触れた。予想していなかった暖かくて優しい温もりに、平次は恐る恐る薄目を開けた。そこには温かな微笑を浮かべて自分を見ている新一の姿があった。見る者を魅了してしまう、平次の大好きな新一の微笑み……。
「…ばーか。男相手に、遊びなんかであんなキスできるかよ……」
 また、瞬時に理解できなかった。今日、この部屋に来てからずっと頭の回転は鈍くなったままだ。彼の顔をもう1度見つめて、そこでやっと悟った。
 夢ではないか、と思った。両目をきつく瞑ってしまった時に、知らず眠ってしまったのではないかと思わず疑った。でも、温かな新一の手の温もりが、これは夢ではないのだと教えてくれている。平次は彼の手に自分のそれを重ねると、安堵の溜息をついた。
 再び目を閉じた平次の肩を新一は引き寄せると強く抱きしめ、聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。
「すっげぇ自分勝手だけど、あんな俺の記事を見せて、無邪気に『凄い』と言って、何も感じていないようなおまえに苛立ってたんだ。おまえはヤキモチも焼いてくれないのか、ってな…。だから……卑怯だとは思ったけど、あんなやり方した……。思い通りにならないおまえを思い通りにしたくて。…悪かった。けど、勘違いはしないでくれよ。俺は、決して冗談なんかでしたわけじゃないから………」
 新一はそこまで言うと、照れたのか平次の肩に顔を埋めた。そんな彼の腕に包まれ、耳元で囁かれた新一の声が幸せすぎて、平次の意識は朦朧としていった。このまま寝入ってしまいそうなくらい安心して、子どものように新一の胸に頬を摺り寄せる。もっと彼の体温を感じたくて、彼の背中に両手を回して抱きしめた。
 まるで少女マンガのような展開だと、平次が思った時。
 頭上から思いもよらなかった科白が降ってきた。
「というわけで、俺とおまえは両思いvv優しくしてやるからな」
「え……?」
 平次が返事をする間もなく、新一が今度こそ本気で圧し掛かってきた。話の流れに全くついて来れていない平次は、ただただ唖然とするだけだ。
「ちょっ、ちょぉ待てや!これから2人で、ラブラブな時間を過ごすんやろ!?」
「だから、これからラブラブな時間を始めるんだろ?」
 そう言いながら、許しも得ずに平次の衣服を次々と剥いでいく。悪戯好きの指先が平次の身体に纏わりつき始めると、早々に観念するしかない。
「ちゃうやろぉぉっ!!甘い時間を過ごすんやぁ〜〜!!!」
「はいはい。これから甘〜い感覚を味わえますからね」
「何で自分、いきなり敬語やねん!?気っ色いわ!!」
「うるせぇよ!泣かすぞ、コノヤロー」
「あっ…。くど……そこはあかん!!」
「何?ここが良いって?…ほら。これが甘い時間だろ?」
 そう言って面白そうに笑い、悦楽に染まっていく平次に目を細める。
 初めは平次の反応を楽しんでいた新一も、次第に変化していく彼の全てに夢中になっていき…。2人は互いの身体を求め合い、シーツの海へと沈んでいった。


「何で…こないなことになってしもたんやろ……」
 呟きながら隣で眠っている親友を凝視して、平次は深い溜息を吐いた。あれから何度も何度も絶頂を迎え、執拗に絡んでくる新一の指や唇の動きに堪らなくなって、後の方は何を口走っていたかも覚えていない。我ながら少し情けなくなる。新一とは純愛一直線で行くという理想はいとも簡単に崩され、彼にすっかりペースを掴まれて、浅はかながらも行為に飲まれていった。しかも、仕掛けられたその行為に嫌悪感は全くなく、そんな自分に嫌気が差してくる。
 はぁ〜……。もう1度、溜息をついた。
「…どうした?そんなに溜息ばかりついてると、幸せが逃げていくぞ」
「!」
 いつから起きていたのか、眠っているとばかり思っていた新一が上体を起こし、平次を覗き込んでいた。不思議そうな、または鬱陶しそうに眉を顰めて見つめている。
「な、…何でもあらへん。ちょぉ…考え事しとってん……」
「昨夜のこと……か?」
 どこか不安げな表情。それを見た瞬間、今まで憂鬱な気持ちで考えていたことが、いっぺんにどうでも良くなってしまった。苦笑する。
「嫌、だったのか?」
「ちゃうねん…。そらまぁ、考えとったんはそのことやけど……おまえのことちゃうから。俺は……嫌じゃなかったんや。その、逆に嫌じゃなかった自分が嫌…っちゅーか……」
 上手く言葉に出来なくて焦る。誤解されないように、一生懸命伝わるようにとあれこれ言葉を検索する。その直向さが愛らしくて、新一は嬉しそうに微笑んだ。
 平次の態度や声音に、彼の言おうとしていることが伝わってきた。彼の気持ちがわかったら、今度は新一の悪戯心が頭を擡げてしまった。
「そっか…嫌じゃなかったんだ?良かった。安心したぜ。でも、自分が嫌って何でだよ?あ〜んなに可愛かったのにvv最後の方なんて、もう堪んなかった ぜ」
 ニッコリとそんなことを言われて、平次が瞬間湯沸し気の如く沸騰する。
「な、ななななな何言うとんのや!!あ、あれはやなぁ、今の…そう!今の俺とはちゃうんや!!最後の方なんて、全然記憶にあらへんもん!!お…俺は………」
「へ〜ぇ。そう。記憶にないんだ?ほうぉ……」
「ひっ!」
 言うと同時に、新一の手が平次の1番敏感な箇所を撫で上げる。嫌になる程ゆっくり、優しく。
「く、工藤ぉ……っ、や、やめ………!!」
 絡み付く手を必死に外そうとするが、力の入らなくなった腕では敵うはずもない。すっかり潤んでしまった瞳で新一を仰ぎ見ると、彼は面白そうに頭にくるほど涼しげな笑みを浮かべていた。と言うよりも、天使のような悪魔の笑みとでも言うべきか。
「覚えてないんだろ?それに、今のおまえじゃないんだよな?折角だから、『今のおまえ』にしてやるよ」
「えっ、ええわ!!遠慮するで!!結構ですぅ!!!思い出したからっ」
「遠慮するな。思い出したんなら丁度良いじゃんかvv」
「う…っ嘘やぁぁぁっっ!!!」
 平次の叫びも虚しく勝手に事を始めた新一は、朝日の差し込む部屋の中で昨夜以上に彼を鳴かせるため、その身体を暴きにかかったのだった。

 かくして、平次の理想(純愛?)とはかなりかけ離れたスタートを切った新一との秘密の関係は、今はまだ序章に過ぎない。新一に可愛がられる平次の受難は、これから先もずっと続きそうなのであった。アーメン。


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