童話の王子とお姫様 ―真夏のフェイト新一ver.―   カップリング創作好きに100のお題 No.039 )




 蘭に別れを告げるためにここに来た。
 いつまでも帰らぬ俺をこれ以上待っていてほしくなくて……待たせるわけにいかなくて。

 どこだかの大企業の御曹司との見合い話が出ていることを知り、それを良いことに切り出そうと考えた。







 今日の夕方から、蘭はホテルでおっちゃんやおばさんも交えて、その御曹司一家と食事だ。
 恐らく、その場で話は纏まるだろう。




 これで良い…これで良かったのだと言い聞かせる。










 俺も、数年前までは何一つ不自由の無い生活をしていた。
 将来に何の不安も抱いていなかった。
 自分の好きなことをして稼いで独立して……そして、蘭と幸せな家庭を築く。

 そんな未来を当たり前のように考えていた。




 けれど、あの日から俺の人生は一変したんだ。
 若くして多才と持て囃され、少しいい気になっていたのかもしれない。





 妙な夢を見た。



 御伽噺にでも出て来そうな、それにしては肌の露出の多い衣装を身に纏った長い黒髪の女性。
 彼女は、自分は魔女だと笑いながら言った。


 何をバカなことを…魔女なんているわけないだろと笑い飛ばした俺に、彼女はふと笑みを消し。
 少々眼差しをきつくすると、その瞳にイタズラな光を宿したのだ。

「それなら証明してあげるわ。私が本物の魔女だって」

 不意に彼女から紅色のオーラが迸り、眩しい光が俺に放たれた。
 反射的に腕で目を庇い、光が弱まったのを確認してそろそろと瞳を開いた俺の前に彼女の姿は無く。
 透き通るような声だけが、どこからともなく響いていた。

「取って置きの魔法をプレゼントするわ。解く鍵は、運命の人にあなたの正体を見抜いてもらうこと。素敵でしょう?その人がもし運命の人ならば、確信を持って問い質してきた時点で魔法は解けるわ。その他の人にバレたらジ・エンド。あなたは二度と元の姿には戻れない。さあ、あなたにこの魔法が解けるかしら?」

 楽しげな声は次第に遠のき、俺は真っ白な空間に一人取り残された。




 そして、目覚めた俺は何て夢を見たのかと眉を顰め、寝起きだったためか体に感じる違和感にも気づかずに、顔を洗おうといつも通り洗面所へ向かって…。


 そこに映る姿に我が目を疑った。

 そこにあったのは、10年程前の自分の姿で。



 目を見張り、まだ寝呆けているのかと自らを嘲りながらも四肢が震えるのを止められず、恐る恐る自分の体を見下ろした俺は。


 ……一瞬、息が止まった。


 縮んだ手足、ぶかぶかになったパジャマ、小さな掌……。




 夢ではないかと頬を抓る。
 思い切りひっぱたいても望む覚醒は訪れることなく、ただ柔らかな頬を赤くしただけだった。


 己の身に起こった事実が信じられなくてその場にへたり込む。背筋がぞわぞわする。
 何が何なのか理解出来ず、感情のままに頭を掻き毟った。


 そこへ蘇って来た言葉。




『運命の人に正体が見抜かれれば魔法は解ける』




 俺は勢い良く立ち上がると、一目散に蘭の家へと押しかけた。
 俺は蘭が運命の人だと信じて疑っていなかった。


 突然押しかけて来た見ず知らずの少年(の姿をした俺)に蘭は初めこそ戸惑った様子だったが、元々人が良い彼女は何か事情があるのかと優しく受け入れてくれた。
 それから俺は蘭の家で世話になることになったのだ。

 しかし、その生活は俺が期待したものではなかった。
 寧ろ、逆だった。


 一緒に暮らす内、ひょんなことから、蘭に何度か正体を見破られそうになったことがあった。
 確信したかのような口調で聞いてきたこともあった。


 ……だが、魔法は解けることはなかったのだ。

 俺はその現実に絶望し、打ち拉がれた。




 それからというもの、彼女に正体がバレそうになる度に泣きたい気持ちを押し隠して必死に誤魔化した。
 何故、彼女に打ち明けられないのかと喚きたかった。
 心が悲鳴を上げる。
 身勝手にも、今まで信じていたものに裏切られたような気分だった。と同時に、この想いは実らないのだと突きつけられた気がしてますます落ち込んだ。


 強く願えば何だって上手くいくと思っていた俺は、何て浅はかだったのだろうか。




 ―――蘭とはもう一緒にいられない…。



 この魔法は蘭には解けなかった。

 俺が姿を消してからも、ずっと心配して待っていてくれたのに。
 泣いていたことすらあったのに。


 だから、もうこれ以上、彼女を縛り付けておくことは出来ないのだと悟ったのだ。



 愕然とする。
 あまりの仕打ちに目頭がつんと熱くなった。




 何が運命の人だ…。




 もうどうしたら良いのかさえわからなかった。




 兎に角、一人になりたくて。
 頭を冷やしたかった。




 俺は、自分の行き着く先が全く見えず。

 まるで、あの水平線の彼方のようだとぼんやり思っていた。








 そんなとき出会ったあいつ。
 俺や蘭と同い年くらいの彼は、人懐っこい笑顔で寄ってきた。

 悲壮感たっぷりなこの空気がわからないのか。
 俺は今、一人になりたいんだよ。

 親しげに話しかけてくる明るい声も笑顔も何もかもが鬱陶しくて、突き放してやったのに。


 気づけば、軽々しく蘭のことを口にしたあいつを俺は殴っていて……それは図星をさされたからに他ならなかったが、次いで、素直に謝ってきた彼に唖然としてすっかり毒気を抜かれてしまって。


 何か……不思議な奴だ。
 これまで会ったことのないタイプだと思った。

 くるくる変わる表情の所為か、何だか年齢より幼い感じがする。
 どこか間の抜けた行動もおかしくて、自然と笑っている自分に気がついた。




















 俺は蘭が好きだった。
 本気で、運命だと信じていた。

 でも、もう吹っ切らなきゃならない。
 どんなときも一緒にいたのに別々の道を歩いて行くのは確かに悲しいし、身を引き裂く思いだけれど。

 このままでは、俺も蘭も一歩も踏み出せないから。
 前に進まなければ何も変わらないから。

 だから、この辺でピリオドを打とうと決心したんだ。


 こんなに近くにいるのにメールも電話も出来なくて、切手の無い手紙をポストに入れたあの日。
 それを読んだ彼女は案の定泣いていたが、両親に宥められてやっとの思いで言葉を飲み込んでいた姿が未だ鮮やかに脳裏に浮かんだ。




















 週末にはこの小さな海辺の街で夏祭りがあるらしい。
 気晴らしに案内してくれないかと彼に言ったら、満面の笑顔で了承してくれた。






 不思議だな…。
 会って間もないのに、おまえになら何でも話せそうなんだ。
 こんな気持ちは初めてで戸惑うけれど。


 どうしてだろう…温かくなる心と裏腹に、胸が痛くて堪らないんだ…。










END (2009.8.20 UP)





何だか纏まりのない文章でスミマセン;;

新一さんに魔法をかけた黒髪の魔女は、言わずもがな紅子ちゃんで(笑)



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