「あ…っふ……んん……」
 唇をそっと舐めてやると、平次は堪らないというように身体を震わせて唇を開く。両腕が新一の首に縋り付き、抱き寄せると自ら舌を突き出して絡めて来る。互いにきつく抱き締め合いながら交わす深い口付けは、下半身にじんとした甘い痺れを連れて来た。
 平次は、新一に縋っていた片手をはずすと彼の右手を掴み、そろそろと自らの胸元へ引き寄せた。撃たれた傷が丁度胸の下方だったため、包帯に隠されなかった乳首に新一の指を触れさせる。思わぬ平次の行動にドキリとした新一だったが、次の瞬間には性質の悪い笑みを口元に浮かべ、触れさせられた乳首を優しく捏ね繰り回した。
「……何?おまえ、今日はやけに積極的だな……。自分からこんなことしたことねぇじゃん…いつからこんなにエロくなったんだ?傷、開いちまっても知らねぇぜ?」
 与えられる快感を涙を浮かべながら受け入れ、甘い吐息を零す平次に益々笑みを深くする。突起を親指と人差し指で挟み、摘んでは転がす。
「う…っさいわ……!しゃあないやろ……ずっと、我慢してたんやから……っ」
「へぇ……。ずっと、俺とやりたかったんだ…?」
「!!そ……っ!!」
 言い放たれた台詞に、瞬間湯沸かし器の如く顔を真っ赤にした平次が言葉に詰まって新一を見下ろす。新一はそんな彼に片頬を吊り上げた。
「……安心しろよ。俺も、ずっとおまえとしたかった…」
 言いながら、ボタンをはずして肌蹴させた胸元に顔を寄せ、小さく主張している突起を柔らかく口に含む。そのまま啄ばむような愛撫を何度か繰り返してから転がすように口腔内で舐め回せば、平次の口から甘い喘ぎが零れ落ちた。新一の頭を掻き抱く。
「あっ……!やぁ……っ……うそ…つき……!」
「何が…?誰が嘘つきだって?」
 快感に喘いでいた平次の口から飛び出した言葉に、新一が顔を顰めて今度は首筋に齧り付く。
「うあっ……!」
 突然薄い皮膚に噛み付かれ、平次が悲鳴を上げた。
「……はぁ…っ……せや…かて……おまえ……蘭ちゃん、と……」
 新一に言葉の続きを促され、喘ぎながらも繋ぐ。そこに出て来た名前に、何の事かと新一が瞳を傾げ。そうして、彼が言わんとすることに思い当たった新一は、途端に不機嫌そうに目を眇めた。
「蘭…?あぁ……言っておくけど、俺、蘭とは一回もしてねぇぜ?」
「え……」
 あっさり否定され、平次がぽかんと口を開けたまま新一をしげしげと見つめる。まるで疑っていたような彼のその態度に、新一は身体を起こすと不愉快そうに口を一文字に引き結んだ。
「おまえ、そんな風に思ってたのか……?ってことは、おまえは和葉さんとしたってことかよ?」
 平次は一瞬呆けて、次に何を想像したのか湯気が出そうなくらい赤くなった顔をブンブンと思い切り横に振って怒鳴る。
「ア…ッアホッ!!そんなん、するわけないやんか……!!」
「ふーん……。ま、平次クンは、するよりされる方が好きだもんな?」
 平次の答えに満足そうに笑った新一が、しゃあしゃあととんでもないことをのたまう。それには流石の平次も抗議しようと、身を捩って起き上がろうとした。が。
「なッ!!何言うて……っ…あぅ…っ!!」
 何の前触れも無く中心を撫で上げられて、平次の身体が大きく跳ねた。
 身体を起こそうとした努力も虚しく、再度シーツに埋もれる。再び胸を舐められながら平次自身を直接握り込まれ、覚えている感覚が蘇ってくる。しかし、身体が覚えている指とは違う長さ、圧し掛かってくる身体の大きさの違いに、平次の理性は徐々に失われていった。
「ほら。こんなことされて、悦んでるじゃん…。おまえ、好きモノだよな…」
「そ、それは……おまえが……相手やから…やんか……っ!!」
 思わず、といった様子でそんな台詞も口をついて出る。
 新一は驚いたように一瞬動きを止めたが、すぐに愛撫を再開させた。平次の顔を覗き込んだその顔が微かに上気しているのは、恐らく見間違いでは無いだろう。照れ隠しか、少々眉間を寄せて仏頂面で平次を見つめる。
「…へぇ………そうなんだ。おまえ…すげぇ可愛いこと言うじゃねぇか。そんなこと言われちまったら、手加減出来ねぇぞ。覚悟しろよな」
「や……ちっとは手加減してぇや……俺、工藤とすんのは初めてなんやから……」
 恥ずかしそうに視線を外す平次を見て、手加減出来る方が凄いだろう…と新一は思う。彼の顔の両脇に腕をついて真上から見下ろし。顔を近付けると、平次は視線を新一に戻す。至近距離で見詰め合い、枕に広がる平次の柔らかな髪を撫でる。そのまま指を顔に滑らせ、新一は彼の唇を親指でなぞった。
「そう言われればそうだな。この身体でやるのは初めて…か。なら、尚更、手加減なんて出来ねぇのはわかるだろ」
 理不尽な物言い。けれど、平次も男だから理解出来る。それに、何よりも、彼自身もずっと新一を欲していたのだ。
 平次は了承を伝えるように、新一の身体を愛しげに抱き締めた。















 熱に浮かされた濃密な時間が過ぎ、病室には気だるいが穏やかな空気が流れている。
 既に、東の空は白み始めていた。朝の早い鳥達のさえずりが聞こえてくる。
「……なぁ」
 窓を開けて一人薄明を眺めていた新一は、その場で身体を反転させると窓枠に寄り掛かりながらベッドに突っ伏す平次を見た。新一の呼びかけに、まどろんでいた平次が眠そうな瞳を開けて問い返す。
「何や……?」
「あのチェーンチョーカー…おまえがポケットに入れてた奴な。あれ、どうしたんだ?」
「え……?」
 何の脈略も無い質問に、平次の脳がぱっと覚醒する。何度か瞳を瞬いて新一を見つめ、次に気まずそうに逸らされるその様子は、突然ウィークポイントを突かれたとでも言いたげだ。
「なぁ。あれって、おまえが俺にくれたのと同じ奴だよな?」
 窓を閉めてベッド際にやって来た新一は、尚も追求を続ける。彼にとっては純粋な疑問なのかもしれない。平次は溜め息を吐くと、仕方なさげに返事を返した。
「…………。……せや。一年前に買うたんや」
「一年前?…って言うと、高三の春か。丁度、おまえと和葉さんが付き合い出した頃だな」
「……おまえ、わかってて言うてんのか?」
 考え込むときの癖で顎に手を当てて呟く新一を、平次がジト目で見上げる。それに対して、当の新一は瞳を傾げて不思議そうに平次を見返す。
「?何がだ?」
「…………あんな。おまえ、さっき俺んこと鈍いって言うたけど、おまえ大概鈍いで」
 疲れるわ…とまた一つ大きな溜め息を吐いた平次に、新一が瞳を細めて眉を顰める。
「は?何でだよ?」
「せやから……!何で俺が一年前に、おまえにやったのと同じモンをわざわざ買うたかっちゅーことをやな…!」
「どうして、わざわざ同じのを買ったんだ?」
 茹蛸のように真っ赤に染まった顔で怒ったように叫んだ平次に、新一がにっこりと綺麗な笑顔を返した。その口から飛び出た科白と表情は、まさに確信犯のそれで。
 さっきまでムキになっていた自分と、彼に見透かされていた事実に急に恥ずかしくなった平次が、シーツに顔を半分埋めて小さく愚痴る。隠されていない耳も、可哀相なくらい真っ赤だった。
「………わかってるやないか……ドアホが……」
「いや、わかんねぇから聞いてんだけど?」
 邪気の無い笑顔が平次の顔を覗き込む。瞳が綺麗な半月を描いていて、その奥の色合いに惹き込まれる。穏やかな手つきであやすように何度も髪を掻き上げられ、平次はついに白旗を揚げた。
「ホンマにおまえって、ずるい奴やんな……」
 緩やかな動作で起き上がると、彼はベッドに座り直した。一度瞳を閉じて深く息を吸い込むと、その瞳に最愛の人を映して口を開く。
「……一度しか言わんから、耳の穴かっぽじってよう聞けよ!」
 喧嘩腰の前置きをしてから告げられた、真実。




「おまえのこと、どうしても忘れられへんかったからに決まっとるやろ!ボケ!!」




 聞いた瞬間、嬉しそうに微笑んだ新一に見蕩れた平次は、そのまま腕を伸ばしてきた彼に大人しく抱き込まれた。新一は、胸に抱き締めた彼に「そう言えば…」と耳元に口寄せて。
「あと、俺、まだ言ってなかったな」
 平次の手を取って、自分の胸元に光るロザリオに触れさせる。触れたものに目を向けた平次の額に、新一は誓いのようにキスをした。
「遅くなっちまったけど、これ………チェーンチョーカー、ありがとう。これが、ずっと俺とおまえを繋いでくれていたんだな……」










 もうすぐ、この街も眠りから覚める。
 明るく大地を照らす光が昇り、窓から差し込む日差しが柔らかく二人を包み込む。
 互いの優しい幼馴染み達にも、どうか幸せが訪れますように…と太陽を仰いで願った。





 もう二度と、道を誤ったりはしない。この手を決して離さない。
 暗く淀んで哀しい雨を降らせていた空は、いつしか綺麗に晴れ渡っていた。






 二人、微笑み合って見上げた空は、吸い込まれそうなまでにどこまでも蒼く。


 新しい季節が、始まりを告げていた。






END




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