この雨がやんだとき、きっと僕に太陽は昇らない

(フリー配布は終了しました。)






 ―――このまま、時間が止まれば良い…

 そんな風に思ったことはある……?





 最近、よくそう思うんだ。

 おまえの顔を見る度に…。

 このまま時間が止まったら。いつまでもこのままでいられたら…って。

 こんなこと、おまえに言ったらどんな顔するんだろう。

 出来もしない馬鹿げた発想だとでも言って嗤うのだろうか。

 それとも、叶わぬことだとわかっていても少しは賛同してくれるのだろうか。



 自分の腰辺りに視線を落とし、今は小さな彼の頭をそっと見つめる。…と、視線に敏感な彼は怪訝そうに見上げてきて。

「……あんだよ?」

 問いかける。俺に。

 人より蒼く澄んだ綺麗な瞳に俺だけを映して。



(……なぁ、工藤…。俺達は、いつまでこんな風にしてられるんやろな…)



 目の前の瞳が少し見開かれて何度か瞬く。


 おまえが元に戻るとき、今の俺達の関係は間違いなく壊れる。



 一緒になって走り回り、顔を寄せ合って内緒話をした。

 一緒に遊園地に遊びに行った。

 人混みではぐれるかもしれないからと手を繋いだ。

 子ども向けの遊具、危ないからと係員に一緒に乗せられてどさくさに紛れて強く抱き締めた。

 彼の幼馴染みの彼女が微笑みながら見つめる先で幾度もちょっかいをかけた。

 彼が工藤新一だと知らない彼女の前で感じた優越感。彼を今独占しているのは自分だと。

 彼が真っ直ぐ自分を見てくれることが嬉しくて。触れられる事実に心が踊って。ふざけながら抱きつく体温が愛しくて…。

 いつまでも離したくはなかった。



 だけど。



 それは、「今」しか出来ないこと。彼が元の姿に戻れば、そんなこと出来るはずがない。

 勿論、彼が自分と並び称される高校生探偵に戻る日が早く来れば良いと願ってはいる。しかし、その日が多分、俺達の終焉の日。

 待ち遠しいはずなのに、暗い心のどこかでその日が来なければ良いと思っている自分を確かに感じる。

 それは、彼を裏切っているのと同じだ。上辺だけの言葉に、聡明な彼は時を置かずして気が付く。そして、彼はそんな俺を軽蔑するだろう。

 矛盾した感情の中で一喜一憂し、気持ちを持て余してもがいている自分に溜め息が漏れる。



(俺は一体どないしたらええんや、工藤…)



 黙って俺を見つめていた工藤は、不意に困ったように苦笑いを浮かべ、ふっと指を伸ばして来た。

 頬に軽く触れてすぐに去って行った感触を、瞬きもせずに目で追い掛ける。

「……泣きそうなツラしてんじゃねぇよ…」

 子どもに言うような優しい響き。困った顔をしながらも柔らかく笑う。

 そんな彼を呆然と見ていた俺の頬を、いつの間にかツゥ…っと一筋の涙が伝って行った。







 俺はおまえが好き………好きなんや……。







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