麗らかな日差しに誘われて、ぶらっと玄関から外に出た。 このところずっと事件ばかりだったから、たまにはのんびりと図書館でも行ってみようか。こんな天気の良い日はゆっくり散歩するのも悪くない。 そう考えて、いつもならば車で行く駅前の図書館まで歩いて行くことにした。 外に出ると、早速暖かな日差しに迎えられた。 思ったよりも体感気温は暖かいかもしれない。爽やかな風が頬を撫で、とても気持ちが良い。 門を閉め、気分良く歩き出す。 すると、どこからか、ふんわりとジャスミンの香りが運ばれて来た。ふっと立ち止まり、匂いの源を探して瞳を動かせば、少し先の庭先に咲いているのを見つけた。 自宅から大して離れていない家の庭。青々とした若葉と共に、白い花弁が幾つも広がっている。 こんなところにジャスミンを植えている家があったのか…と思って、普段、あまり周りの景色に気を留めていなかったことに気が付いた。 (もう、こんな季節なんだな…) ゆったりと傍に寄る。近付くにつれ、強くなる芳香が柔らかく鼻腔を擽った。何となくホッとする、自然のフレーバー。 瞳を閉じて、香りを吸い込むように静かに深呼吸を繰り返した。そして、リラックスした頭に浮かんだシルエットに、知らず笑みが浮かんで瞳を開ける。空を見上げる。 雲ひとつ無い真っ青な空が頭上に広がっていた。そのキャンパスを飛行機が横切り、白い帯を残して行く。 太陽はまるで初夏のような光を地上に降らせ、すくすくと育ったジャスミンが季節を知らせてくれた。 もうすぐ、あいつが来る時期だ。 毎年飽きもせずやって来る。 俺が忘れている誕生日を思い出させるために。 祝ってくれるために。 「この世に生まれて来てくれてありがとう」 祝いの言葉と共に幾度と無く贈られた言葉だけれど、俺もおまえにそう言いたいよ。 どうしてだろう…。 おまえのことを考えたら、自然と笑顔になってしまう。 小さな灯でも灯ったみたいに心が温かくなって、とても穏やかな気持ちになる。 おまえは俺の精神安定剤なのかもしれないな。この芳しいジャスミンにも負けない効果があるよ。 ここにはいないあいつに向かってこっそり微笑う。 恐らく、今週末には来るだろう。 そうして、いつものあの明るい笑顔と一緒に、今年もこの言葉をくれるのだろう。 そのときは、俺も同じ言葉を返したい。 「この世に生まれて来てくれてありがとう」 一足先に、穏やかな気分にさせてくれたジャスミンと、その香りを運んでくれた風に囁く。 風に揺られて花達が頷くような動きを見せるのに小さく微笑み、俺は再び図書館へと足を進めた。 不意に訪れた安らかなひととき。 風薫る、五月。 END (write:2008.05.04) |
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