12月も半ばの街はクリスマス一色で、行き交う人々も皆どこか浮かれ気味だ。 新一は煌びやかなネオンが踊る中、重い足取りで自宅を目指していた。沈む気持ちを表すように瞳を伏せてマフラーを握り締める。 その年一番の冷え込みとなった今日、都内のある場所で事件が起こった。 こんな風に言うのは不謹慎極まりないが、動機は痴情の縺れという所謂「よくある事件」だったのだが。 事件自体は数時間で解決したものの、犯人の身勝手な言い分を聞いている内に湧き上がってきた何とも言えない感情が次第に胸の蟠りとなって、どうにも後味の悪い事件として新一の心に残っていた。 そんなにも愛していた人を何故殺してしまったのか。どうしてそういう行動を起こしてしまったのか。 衝動というものは人間誰しも持っているだろう。それをどうやって抑え込むかが重要で。 その衝動を抑えきれず、感情のままに凶器を振るってしまった犯人。思わず理性を失ってしまったのか、あるいは、元々の感情の沸点が低いのか。 どちらにしても短絡的だと、この手の事件に関わる度にそう思っていた自分がいた。 しかし、今日の犯人の言葉を聞いてふと思ってしまったのだ。 ひょっとしたら、いつか自分もそういうことをしてしまうのではないか…と…。 蘭を好きだった頃には感じたことのない激しい感情を、時にあいつに抱くことがある。 そのときの自分はまるで自分ではないかのように、あいつに対して冷たい態度や言動をぶつけてしまうのだ。 その度に、あの澄んだ綺麗な瞳を悲しみに染めてしまう。 優しくしたいというのは本当で、その気持ちに嘘偽りは無い。だが、愛しさを感じると同時に、めちゃくちゃにしてやりたいと思ってしまうことがあるのも確かだ。 そうやって、自分の思い通りにしようとしている。あいつの瞳にいつも自分を写して欲しくて。 そんなの…今日の犯人と同じじゃないか……。自分勝手で、独占欲ばかりが強くて。 そう感じて気持ちが沈んでしまったのだ。自分は大丈夫だとは思えなくなった。そんなことを考える自分が怖くなった。 ハァ…と溜め息を吐き、いつの間にか辿り着いていた自宅の扉を開いた。とぼとぼと自室に向かう。 扉を開け、電気も点けずに真っ暗な部屋の中ベッドに倒れ込む。 と、そのとき、何の前触れも無く携帯の着信音が鳴り響いた。 ベッドにうつ伏せになった体勢のまま、のろのろとズボンのポケットを探る。億劫な手つきで開くと、メールが一通届いていた。 無造作にメールボックスを開いて……送信者を目にした途端、思わず心臓が高鳴った。 慌てて飛び起きてボタンを押す。 「…添付ファイル?」 見れば、画像ファイルが添付されていた。 あいつが添付ファイルを送ってくるなんて珍しいこともあるものだと、訝しげに首を傾げながら開いてみると…。 「……っ……ぷっ…」 突如表われたのは、ミカンを一個丸ごと口に詰め込んだ平次の顔。おまけに両手にも数個持っていて、瞳は口一杯にミカンを詰め込んでいるため辛いのか僅かに潤んでいる。 画面一杯に晒されたそれに、新一は堪らず小さく吹き出した。 「何てツラしてんだよ…ったく…」 小さくぼやいて、続けて目を向けた本文には。 『凄いやろ!?工藤ー!!俺、ミカン丸ごと一個口ん中入ってんで〜♪L玉は流石に無理やったけどな(笑)しっかし、カッコつけのおまえには到底出来へん芸当やろ?写真撮ったから、記念に送るわ』 ……送るな。そんな変なモン。 小学生か。とか、口がはばけてんじゃねぇか。とか、口に入ってるのに両手にもミカンなんてどんだけだよ。とか、色々突っ込みたいことはあったけれど。 どうしてだろう…。さっきまでの重苦しい気持ちが一瞬にして吹き飛んでしまった。吹き出した形のまま、唇は自然と笑みを象る。 大丈夫…おまえの顔を見ただけで笑顔になれる自分は、きっと過ちを犯したりはしない。 あの犯人とは違う。同じになんてなって堪るかよ。 この気持ちをずっと大切にしたい。誰かを想って温かくなれることを忘れたくない。その先にある幸せも見失いたくはない。 新一はベッドに座り直すと短縮ボタンを押した。 どうしようもなく、会いたくなった。あの元気の塊のような笑顔と、柔らかく自分を呼ぶ声を聞きたくなった。 数回の呼び出し音の後に繋がる愛しい声。いつまでも聞いていたい、大切な人の声。 「もしもし…服部…?」 |
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