Love me more





 どうしたら、キミに伝えられるのだろうか。
 胸に溢れるこの想いを―――…。


「服部ー。コーヒーで良いか?」
 キッチンから新一の声が聞こえる。
 今日も工藤邸を訪れていた平次は、その声に読んでいた雑誌から目を上げた。嬉しそうに微笑んで 寛いでいたソファから立ち上がる。 キッチンを覗くと、カップを用意している新一と目が合った。
「手伝うわ」
 言いながら戸棚からシュガーポットを取り出そうとするのをやんわりと止められる。
「良いって。美味いコーヒー淹れてやるから、リビングで待ってろよ」
「そ、そっか?ほな、待っとるわ。おおきにな」
「あぁ、気にすんな。一応おまえは客だからな」
「一応って何やねん。正真正銘の客やっちゅーねん」
 綺麗な顔で微笑まれ、頬をほんのりと染めつつも新一の台詞に突っ込む。新一は苦笑しながら、 湯が沸いたことを知らせる薬缶へと向かった。そんな新一の姿に口元を緩め、平次は幸せを噛み締めるように してリビングへと戻った。
 脂下がった顔で扉を開ける。
 しかし、目を上げた瞬間、そこに先程までいなかったはずの人物が笑いながら手を振るのを認めて顔を微かに引き攣らせた。ニヤけた顔を見られたのではと思いながらも取り敢えず笑顔を作る。
「何や、黒羽来てたんか」
「よ!平次。ここの傍を通ったら何か良い匂いがして来てさ、誘われて入って来ちゃった」
「相変わらずの不法侵入やなぁ…」
「不法侵入なんかじゃないよ。俺と新一はお友達だもん。何の問題も無いって」
 傍に置いてあった雑誌をペラペラと捲りながら悪びれることなく平然とのたまう。平次は苦笑いを零した。
 さっきまで座っていたソファには快斗が座っているため、彼の向かいのソファに腰を下ろす。目の前の 快斗はニコニコしてやけに楽しそうだ。
「何、ニヤニヤしとんねん?」
 何がそんなに楽しいのかと不思議に思った平次が素直に疑問をぶつけると、快斗はがっくりと肩を落とした。
「酷いなぁ…。ニヤニヤじゃなくって、ニコニコって言ってよ」
「あ〜はいはい。ニコニコしとって気色悪いわ」
「気色悪いって……それも酷い…。俺は新一と平次と一緒に遊べて嬉しいな〜って思ってたのに…」
 大袈裟なまでにジェスチャーをして泣き真似をする。大の男がソファに両足を乗せて縮こまり、握り締めた 両手を口元に当てて泣き真似をする姿は、どう贔屓目に見てもやはり不気味だ。平次は口元を些か引き攣らせた。
「あ〜…すまんすまん…。わかったからそのポーズやめぇや…。今な、工藤が美味いコーヒー淹れてくれとるから、大人しく待っとき」
「えっ!新一のコーヒー?」
 途端に満面の笑みを浮かべる。現金な快斗に、まるで小さな子どもをあやしているような錯覚を覚える。 育児に疲れた母親のように、平次は疲れたような笑顔を浮かべながらげんなりと肩で息を吐いた。
 暫く経った後、淹れ立てのコーヒーの何とも良い香りを漂わせながら新一がリビングに現れた。両手に カップを持ち、端正な顔に極上の笑みを浮かべて入って来た新一は、快斗の姿を発見するや否やその笑顔を 強張らせた。が、気を取り直したようにテーブルにカップを2つ置くと平次の隣に腰を下ろす。
「ほら、服部。淹れ立てだから美味いぜ」
「あ、おおきに。ほな、いただきます」
 にこやかに平次にカップを渡す。至近距離で新一の笑みを見せつけられて、平次はドギマギとしながら カップに口を付けた。一口飲んで、余程美味しかったのか嬉しそうに瞳を輝かせる。
 それを満足そうに眺め、新一も自分のカップに手を伸ばした。と、向かいのソファからお声が掛かる。
「ねぇ、俺の分は?」
「てめぇの分なんかねぇよ」
 にこにこしながら自分を指差す快斗に、新一はカップから目を上げると眉を顰めて冷たく言い放つ。 あまりの扱いの差に、当然の如く不平が唱えられる。
「えぇ〜〜〜!?俺だって客だよ?」
「俺は呼んだ憶えはねぇ」
「でも、ここは新一の家なんだから淹れてくれてもいいじゃん」
「人ん家に不法侵入しといて何言ってんだ?」
 唇を尖らせて尚も食い下がる快斗に、新一は取り付く島も無いといった様子で一蹴する。快斗は情けない顔をした。
 そんな一部始終を見ていた平次は不意に快斗が不憫に思えてきて、そっとカップを置いて立ち上がると リビングから出て行く。新一は怪訝な顔で平次が消えた扉を見つめ、やがて戻って来た平次が手にしているものを 認めて柳眉を跳ね上げた。
「ほれ、黒羽」
「あ、サンキュ〜!平次は優しいねぇ〜」
 パッと顔を輝かせて、与えられたコーヒーカップを両手で包む。新一の眉間が寄せられる。
「服部!」
「…っ!!はいぃ!!?」
 突然大声で叫ばれて、驚いた平次は思わず姿勢を正して新一に向き直る。視線を向けた先で、新一はソファにふんぞり返り、腕を組んで平次を見上げていた。
「おまえ、何でそいつにそんなことしてやんだよ!?」
「は……はぁぁ?」
 言われた意味がわからず、困惑した表情を浮かべる。新一は預けていたソファの背から身を起こすと、 立ち上がって平次に詰め寄った。
「こいつはな、俺に冷たくされたってどうってことねぇんだよ。どうしても飲みたきゃ自分で淹れるんだし、 甘やかすんじゃねぇよ!!」
「な…っ!!何やねん、それ!?そんなん黒羽が可哀相やんけ!!」
「だから!!快斗は俺に任せて、おまえは俺だけ甘やかしてりゃ良いんだよ!!」
「……はぁ?」
 息巻く新一が言い放った台詞に、平次は一瞬ぽかんとなり。頭の中で今し方の新一の台詞を何度も再生し、 言われた意味を理解するにつれて、彼はみるみる内に顔を紅潮させていった。
「それが本音だよね」
 黙って2人のやり取りを聞いていた快斗が、静かになった部屋の中で呟く。平次がそろそろと視線を快斗に向けると、 気付いた彼はにっこりと笑った。
「新一は我が侭だからね。惚れた人には自分も甘くなるけど、その人にもとことん甘やかせてもらいたいんだよね」
 手に持ったカップの中身をぐびっと飲み干し、真っ赤になって呆気に取られている平次と、仏頂面をしながらもこちらも微かに頬を 色づかせている新一を交互に見回す。会心の笑みを浮かべて一人頷いた彼は、空になったカップをテーブルに置いた。
「ご馳走様。美味かったよ、コーヒーも。じゃあ、今日のところは、お邪魔虫な俺はこれで帰るね」
 事の元凶は爽やかにそう言って颯爽と立ち去った。
 パタンと扉が閉まり、残された2人は互いをチラリと窺い見る。途端にかち合った視線に忽ち尚更赤くなり、 同時にそっぽを向く。新一はバツが悪そうに前髪を掻き揚げ、平次は何も言えずに俯いた。
 普段、言葉にあまり出さないだけに、不意打ちのように知らしめられた感情に言葉が出ない。
 でも、惚れているのは自分も同じだから、相手を甘やかしたり甘やかされたりしたいと思う気持ちはよくわかる。 というより寧ろ、いつだってそうしたい気持ちで一杯だ。彼を独占して自分だけを見ていて欲しいとも思う。
 平次は新一の横顔を見つめる。
 こうやって家に招き入れ、自分のためにコーヒーを淹れてくれる。そこに他の人間とは違う「特別」を今更ながら実感して、 平次は心の中がポカポカしてくるのを感じた。自分と同じ気持ちで想ってくれている新一の気持ちが身に沁みる。
 ふと、視線に気付いた新一が振り向いた。
 未だ拗ねたような顔をしている彼に満面の笑みを浮かべる。その笑顔の理由がわからず、一瞬きょとんとした新一の首に 腕を回して軽く口付けた。腕を離して瞠目する彼にもう一度笑いかける。
「おおきに、工藤。ホンマに俺のこと好いてくれてるんやな」
 はにかんだように言う平次に、新一は漸く合点し。
 目の前で照れ笑いをしている平次の腕を引き、抱き寄せた。ぎゅっと力を込めて抱き締める。
「当たり前だろ。俺は、世界中の誰よりもおまえを愛してんだからな。よく憶えておけよ?」
「俺も、おまえをこの世の誰よりも愛してんで。よう憶えときや」
 幸せそうに笑い合いながら抱擁を繰り返す。

 愛しいと思う気持ちが、どうかこのまま相手に伝わりますように―――。

 そう願いながら、2人は時間も忘れてただひたすらに互いの温もりを抱き締めていた。




END (2006.5.14.up)



33910ヒット記念、小雪様のリクエストで、「平次にベタ惚れな工藤さんで、ラブラブな2人」でした。
ですが…す、すみません……;;
物凄く遅くなってしまった上に、どこら辺がラブラブなのかという感じで、本当に申し訳ありません〜〜〜…ッ!!(><;


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