* おまけ・ハッピーバレンタイン *   初出同人誌 『ミルクコーヒー』2005.3.27  2005.9.25(再録本に収録)




 今日が終わってしまわない内に―――。




 雪がチラつく夜闇を走り抜ける。閑静な住宅街は、もう既に夜中に近い時間のためか人気も無く、家々の灯りも点々としている。今、この闇を照らすのは、凍える空気の中に淡く浮かび上がる街灯だけ。


 身を裂くような寒さに凍えるけれど。

 容赦無く吹き付ける北風は頬を刺すけれど。

 空から舞い落ちる純白に少しだけ癒される。




 早く、あなたに逢いたいから。




 道に薄く積もった雪に足を取られ、何度も転びそうになりながらも、走る速度は緩めない。
 これから訪ねて行ったら、あなたは何て言うのだろう。


 また、突然押し掛けて来たと怒るのだろうか?それとも、呆れるだろうか。

 その後、鞄から取り出した物を渡したら、一体どんな顔をするの?


 あなたはきっと、数えきれない程それをもらっているだろう。今日はそういう日だから。
 おまえも世間に便乗するのか、と言いたげにウンザリする顔よりも、柔らかく笑ってくれる顔が見たい。
 そして、出来るなら、あなたが数多く受け取ったそれらの中で、自分が渡すそれが特別になれたら良いのに……と思う。


 急がないと、急がないと―――…。





 もうすぐ、今日という日が終わってしまう。
 今日は何の日か知ってるか?工藤。
 大好きな奴に、「大好きや」って言う日なんやで。




 次の角を曲がれば、愛しいあなたの家が見えてくる。真っ暗な中に暖かな光を灯して。


 扉を開けた途端、驚いたような表情の後すぐに、はにかんだ笑顔を見せてくれたあなたに力いっぱい腕を伸ばし―――。





「工藤〜!ハッピーバレンタイン♪大好きやで!!」







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