運命のルーレットが廻り始める。 運命の相手とは、生まれたときから赤い糸で結ばれているらしい。 そう、出会う時期までもその頃からきっと決められていた…。 「新一〜!早くしないと遅れるよぉ〜!!」 「わぁーってるよ!ちょっと待ってろ!!」 良く晴れた小春日和。 二月に東都大学を受験した新一と快斗は先日の合格発表を受けて、本日目出度く大学生となった。 今日は最初の行事である入学式。 バリッと真新しいスーツに身を包んで、一緒に行こうと前々から約束していた新一を迎えに来た快斗は、 まさに今さっき起きました状態でパジャマを着たままパンを咥えて出迎えた新一に、暫し玄関先で 呆然としてしまった。口をポカンと開けたまま、言葉を紡げないでいる快斗に新一は不審そうに眉を顰め、 次の瞬間、彼の服装に目を留めてハッとしたように瞳を開いた。 「あれっ!?入学式って今日だっけ…?」 「な…ッ。何言ってんの?新一。昨日電話したじゃん〜…」 「そうだっけ…すっかり忘れてた」 脱力しながら、その歳でボケるのは早過ぎるよ…と心の中でそっと突っ込む快斗に、新一は 「すぐ用意すっから!」 と、慌てて家の中に戻って行った。 あれから十五分。 何事も初めが肝心をモットーとしている快斗としては、初っ端から遅れるのは嫌だなぁ…と思いながら 腕時計を確認する。少し余裕をもって出て来たが、もうそろそろ出掛けなればやばい時間だ。 「新一ぃ〜…」 「うっせぇな!ほら、行くぞ」 俯きながら再度情けない声で名前を呼ぶと、頭の上で声がして顔を上げる。目の前に、藍色のスーツを着た 新一の姿。いつもと雰囲気の違う彼に思わず見蕩れていた快斗の腕を引っ張り、新一は玄関の扉を開けた。 澄んだ空の蒼が目に鮮やかで、とても気分が良い。心地良い風が頬を撫でて行く。 電車を乗り継いで着いた会場は、彼らと同じような服装をした初々しい集団で溢れ返っていた。近くにある桜並木から運ばれて来た無数の花弁が風に舞っている。 その様子に目を細め、視線を巡らせた快斗がふと何かに気づいて徐に手を上げる。子どものように声を張り上げて大きく手を振る。 「あ、平次〜!!」 その声に、新一が快斗の見つめる先に目を向けた。声を掛けられた方も気がついたらしく、こちらを振り返った。 健康的な褐色の肌が印象的だった。艶のある黒髪が桜と共に風に靡く。思いがけず大きな瞳が何度か瞬きを繰り返し、やがて安堵の表情を浮かべると駆け寄って来た。 「黒羽やん。久しぶりやな〜。俺、知り合い誰もおらへんから、ちょぉ安心したわ」 「平次でも不安になるんだ?」 「当たり前やろ。こういう雰囲気って慣れてへんから、どうにも落ち着かへんねや」 照れたように苦笑いをしながら頭を掻く彼は、そこでようやく快斗の後ろにいる新一に気づき、目を向けると 驚いたような顔をした。交互に見比べて。 「あれ…?その人は、黒羽の……兄ちゃん?けど、確か黒羽、一人っ子やて言うてへんかったっけ…?」 「ざ〜んねん。兄弟じゃないよ。新一、こいつが前に話した俺の大阪の友達の服部平次クン。平次、 こいつは工藤新一って言うんだ。俺のコイビトだよv」 「え…?あ、そうなん?」 「……どうも…」 腕に抱き付きながらそう紹介する快斗に、平次が少々複雑な顔をする。腕に快斗を張り付かせて 困惑しながらも新一が軽く会釈をすると、相手もぎこちなく返して来た。 他愛の無い言葉を交わしながら、入り口でパンフレットを受け取って自分の座席を確認する。 「平次はどの辺り?」 新入生名簿と座席表を見比べている平次に快斗が尋ねると、彼は紙の上を指先で指し示した。 「学籍番号順やから……ん〜っと、G31か。真ん中やな」 「…え?キミも法学なのか?」 「ん?」 平次と快斗の会話を聞きながら座席表を眺めていた新一が、あれ?という表情で目を上げる。 今日の入学式は学部毎に席が分かれていて、その辺りは新一と同じ法学部だった。 それに対して視線を彼に向けた平次が、一瞬だけ微かな笑みを浮かべる。が、すぐに表情を戻し、 隣の快斗に目線を流して再び新一を見る。 「あ、そっか。平次、法学だもんね。チェッ……俺だけ違うのかよ…」 快斗は思い出したように呟いて、面白くなさげに小首を傾げて口を尖らせる。 「黒羽は経済やもんな。ほんで?あんたはどの辺やねん?」 拗ねる快斗を宥めるように笑い掛けながら、平次が目で新一を伺う。 「えっと、俺は……Fの27だな」 「おぉ、結構近いやん。もしや、同じクラスなんちゃう?」 「そ、みてぇだな……」 人懐こい笑顔を浮かべて話し掛けてくる平次に、新一は多少身構えながも笑顔を見せる。初対面なのに、 子どものような笑顔と気さくな関西弁のためだろうか、新一の顔には自然と笑みが浮かぶ。 その様子に、快斗は口元を緩めた。 友達との間にも一定の距離を取る新一。決して人当たりが悪いわけではないが、初対面の相手なら尚更彼は壁を高くする。彼のテリトリーに入れる 人間は、家族や幼馴染みと限られていて、最近その中に自分も入れてもらえるようになった。そんな彼だから、 当然親しい友人は少ない。身の回りで起こったことや出来る限りのことは聞いてやりたいけれど、自分は 今や彼の「コイビト」だ。付き合っている相手に聞かれたくないこともあるだろう。 色々な意味で「親友」という存在は必要。特に、彼のように人前で弱音を吐かない人間には、 絶対必要不可欠だと快斗は思っていた。 そのためには、誰が如何にして彼の壁を打破するのか。それが一番の難問だと。 けれども、どうやらそれも杞憂に終わりそうだ。 この大阪の友人は人当たりも良くて明るくて、特にあの笑顔は子どものように邪気が無い。 今日初めて会ったのに、いつもビンビンに張っている新一の警戒が僅かにだが緩んでいる。 彼ならば就けるかもしれない。自分の殻に閉じ篭りがちな新一の、良き「親友」というポジションに―――…。 そんなことをぼぉ〜っと考えていた快斗は、新一に腕を突かれて我に返る。 次第に周りの人数が減っていることに時刻を確かめ、三人は慌しく会場内に入って行った。 * * * 「え〜っと…3101教室は……」 自分で作った時間割を見ながら教室を探す。案内を頼りに目的の場所に辿り着いた新一は、扉の前で 次の時間の名簿兼座席表を眺めている人物に目を留めた。見たことのある後姿に、時間割を仕舞いながら近付く。 「なぁ、キミ…服部……だったよな?」 突然声を掛けられて驚いた彼は、振り返って新一の顔を認めると小さな笑みを浮かべた。 「あ…工藤やんな」 「何?おまえもこの講義取んの?」 「そのつもりやで。……黒羽は?」 「あいつは学部が違うじゃん。これ、専門だろ?」 「あ、そか……。……あの……工藤は〜…その、何か好きなモンとかあるんか?」 「え?」 脈略の無い問いに、新一が瞳を丸くして平次を見つめる。その表情を目の当たりにして、 自分の問い掛けが唐突だったことに気づいたのか、平次がうっすらと頬を染めて両手を振る。 「あ、いや、その、な……工藤とは入学式んとき、何や忙しのうてゆっくり喋られへんかったから ………その……」 困ったように眉を寄せながら顔を赤くし、どもりながらも必死に弁解する平次が、 初対面のとき饒舌だった彼の印象と違って何とも微笑ましく、新一は柔らかく笑うとその肩に触れた。瞬間、ビクンと小さく身体を震わせた平次が、 恐る恐るといった様子で目線を上げた。 「そういや、そうだったな。あんときは快斗がメインで話してたし…。それでは、改めて。俺は工藤新一。よろしくな」 笑いながら手を差し伸べると、平次は殊更嬉しそうな笑顔になり。 「おう。俺は服部平次や。よろしゅうな」 差し出された手を力強く握った。 |
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