食事を終え、新一と平次がのんびり食堂でコーヒーを飲んでいると、ドタバタと 騒がしげな足音と共に快斗が飛び込んで来た。
「もう、新一〜!あいつどうにかしてよぉ〜!!」
 情け無い顔で新一の首筋に縋りついて泣きマネをする快斗に、彼は溜め息を吐きながらその頭を撫でてやる。
「あいつって誰だよ?」
「あいつったら、あいつに決まってるじゃん!白馬だよ。俺、どうも苦手だよ…」
 そこまで言って、快斗は平次が何とも言えない表情をしているのに気付き、そう言えば探は彼の 幼馴染みだったと思い出す。快斗は新一から体を離すと、平次に向かって申し訳無さそうに片手を上げた。
「あ、ごめんね、平次。おまえの知り合いのこと悪く言っちゃって…」
「あ、いや…」
 謝られてぎこちない笑顔を浮かべる。
 そんな2人を黙って見ていた新一は、隣の席に腰を下ろした快斗に視線を移した。
「そうか?俺はそんなに苦手じゃねぇぜ?同じホームズフリークで趣味も合うし、 礼儀正しいし。…まぁ、確かにちょっとキザなトコあるし、妙なこと言ったりして変な奴って 思うけど、悪い奴だとは思わねぇよ」
 笑いながらそんなことを言う新一は、自分が偶にキザになるということは自覚が無いらしい。 その上、何気に探のことを「変な奴」と言うところも悪気が無いようだ。
 突っ込みも入れずにガックリと項垂れる快斗もそれについては気にならないようで、 平次は乾いた笑みを唇に乗せた。
「え―…新一は平気なのぉ〜……?……………じゃあ、俺も出来る限り努力する……」
「そうそう。付き合ってみたら意外と気が合うかもしれないぜ?」
 無意識の内に他人と一線引いて付き合う自分の態度は棚に上げてそんなことを宣う新一に、 快斗は拗ねるように頬を膨らませた。
「俺は、新一以外と付き合う気は無いの!!」
 ガターンッ!と椅子を引っくり返して立ち上がり、大声で叫ぶ。
 何を勘違いしたのか、興奮して頬を紅潮させながら肩で大きく息を吐く快斗を驚いたように見ていた新一は、やがて 深い溜め息を吐くと倒れた椅子を元に戻した。
「バカ。何言ってんだ。その付き合うじゃねぇよ…」
 言いながら、落ち着けとでも言うように快斗の背中を擦る。
 まったく、これでは子どものお守りをしているみたいだ…と、新一はもう一度息を吐いた。







 桜が散り、次第に初夏の花が咲き始める。自然を見ていると季節が身近に感じられる。新一達が大学に入った頃とは見られる景色もその時間の経過と共に変貌を遂げていた。
 GWも終わり、早いもので彼らが入学してから一ヶ月が過ぎようとしていた。

 そんな、ある日。


「えぇ!?工藤の誕生日、5月4日やったんか!?」

 レストランの一角で驚愕に満ちた声が上がる。
 皆の講義が午前中で終わったため、学外で食事をしようと言って入ったレストラン。
 GW中帰省していた平次が「大阪土産や〜」と、皆にづぼらやのストラップを配っているとき、ひょんなことからそんな話になったのだ。
 その声の大きさと操る言葉の違いに、一瞬店内が静まり返って視線が集中する。しかし、当の本人は そんなことには構いもせず、瞳を見開いたまま友人達を見回した。
「何で教えてくれへんかったん!?」
「や…だって、おまえ、GWは実家に帰るって言ってたし、別にわざわざ言うことでもねぇかなって思って…」
「けど、俺がおらん間ぁにお祝いとかしたんやろ?俺も工藤の誕生日祝いたかったで…」
 不満そうに唇を尖らせる様子に新一はどうしたものかと苦笑を零し、隣の快斗に救いを求めるように横目で見る。 が、快斗も困ったような笑みを返してきたので、新一は目の前の平次に目線を戻した。
「あー……うん……えっと…………悪い…」
 頭を掻きながら困ったように言う新一に、我が侭を言ったと思ったのか平次が眉を下げる。
 そんなやり取りの一部始終を眺めていた探は、揚々と口を開いた。
「それでは、これから改めて工藤くんのバースディパーティをやってはいかがですか?」
「は…?」
 紅茶を飲みながら悠然とした態度でそんな提案をして来た探に、新一と快斗の目が点になる。だが、 平次はハッとしたように探を振り返ると、まるで名案だとでも言うように瞳を輝かせた。
「そうや!それがええわ!ほな、そうしよ!!」
「はい」
「え…?」
 展開についていけず、ますます困惑の色を深める2人を置いて、平次と探は勝手に盛り上がる。
 新一は暫し停止してしまっていた思考回路をどうにか動かすと、目の前の2人に待ったをかけた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これからって、今からか?そんな無茶苦茶な……」
「あぁ、突然キミの家に押しかけるのも申し訳無いですね。では、ウチでどうですか? すぐにばぁやに準備させましょう」
 にっこり微笑む探に慌てて首を振る。
「あ、いや、そういうことじゃなくて…」
「プレゼントのことか?そうやなぁ…急やから今日は準備出来へんけど、近い内にちゃんと渡すよって、 心配せんとき」
 任せろとばかりに胸板を叩いて微笑う平次に、新一は言いかけた言葉を吐き出せずに脱力した。 力の抜けた声で辛うじて否定する。
「そうじゃ…ねぇって……」
 何だかそれではプレゼントを強請ったようではないか。誰がプレゼントの心配なんかするか。
 あまりに見当違いな台詞を聞いてテーブルに突っ伏しそうな勢いの新一の肩を、 快斗が宥めるようにポンポンと軽く叩いた。
「いいじゃん、新一。祝ってくれるって言ってんだからさ、祝ってもらいなよ」
「…………」
 新一は、正面であれやこれやと楽しそうに話す平次と探を一瞥し、諦めたようにソファの背凭れに凭れかかった。




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