* 見 送 り *   初出同人誌 『ミルクコーヒー』2005.3.27  2005.9.25(再録本に収録)




 短い連休が終わる。


 今日は、服部が飛行機で帰ると言うので、羽田まで見送りに行ってやった。
 金曜の夜から来ていた服部は、ギリギリまで居たいとか言ってわざわざ最終便にしたものだから、当然ながら既に辺りは真っ暗だった。
 ターミナルビルの窓から、暗闇に浮かぶ飛行機のライトが綺麗だなぁ…とかぼんやり思いながら、あいつが乗ったであろう飛行機を見送った俺は帰路に着いた。……って、俺が見送った飛行機が全然違う便だったら、凄いマヌケてて笑いだよな。
 とにかく、やっと煩いのがいなくなって清々するぜ、と思っていたのに、いざ物音一つしない家に一人で帰ると…悔しいが……何故か少しだけ、もの悲しさのようなものを感じてしまった。火が消えたようってこういうことを言うのかな。
 流石に、一人暮らしを始めた頃は多少淋しいとは思ったけれど、慣れた今では寧ろ一人の方が気楽で良いと思っていたのに。
 あいつと付き合うようになってから、少しずつ自分が弱くなってきたような気がする。
 俺は目を伏せた。
 弱くなる…っていうのは違うかな。今まで蓄積されてきた色々なものが、少しずつ零れ出て来るような、何とも表現し難い漠然とした感覚。張り詰めていたものが少しだけ緩んだような感じ。
 そう言えば、この間蘭に会ったときに、

「新一、ちょっと雰囲気変わったよね。何だか前より優しくなったみたい。服部くんのお陰?」

とか言われたっけ…。

 服部のお陰?他人に優しくなったのは、心の拠り所が出来たからか?

 ―――…と、そんなことを考えて、俺は小さく笑った。
 いずれにしても、俺にとってあいつが掛け替えの無い存在だということは、紛れも無い事実らしい。
 最初は、小学生だった俺に纏わりついて煩いだけだと思っていた奴に、いつの間にか俺は救われていたのだから。
 今では、あの騒がしくて台風のような…でも、全てを柔らかく包み込んでくれる暖かな笑顔を愛しく思っている自分を改めて思い知る。
 全く、今更だよな。


 取り敢えず………服部。
 次の休みは、もう少し早く来ても良いぜ?





 数日後。


 …………服部を押し倒す夢を見た。
 そして、さぁ、これから!ってときに、玄関先から出掛ける約束をしていた蘭の呼ぶ声に起こされた。
 けど………感触も匂いもリアルでやんの…。

 ふと目を眇める。



 やべぇな……欲求不満なのかよ?俺…。




NEXT…『留守電』

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