トリック・オア・トリート*CH   初出同人誌2010.10.31






 いつものように東京・大阪間の距離感をものともせずに探偵事務所へ遊びに来た平次は、ドアを開けるなり押し寄せてきた少年探偵団の面々に思わず身を引いた。
 無邪気な表情で、待ってましたとばかりに一斉に嬉々とした声を上げる。
「トリック・オア・トリート!」
 叫ばれた言葉に、困惑気味だった平次が合点がいったように目を瞬く。事務所の壁に掛けられたカレンダーを確認して、あぁ…と頷く。
「せやせや。今日、ハロウィンやったな」
「そうだぜ!何かお菓子くれよ!じゃねぇと、悪戯しちまうぞ!」
「何でも良いですよ。僕達、贅沢は言いませんから」
「飴玉とかガムとか何か持ってない?」
 キラキラと期待に満ちた瞳で見上げてくる三人に、平次は何かあったか…と考えて、ふと何事か思い出してズボンのポケットを探った。出てきたのは、数個のキャラメル。
「これでええか?」
「うん!ありがとう!」
 嬉しそうに返事をするそれぞれの手にいくつか落としてやる。彼らは早速それを口に入れ、幸せそうに柔らかな触感と甘味を堪能する。そうしてから、元太が事務所の奥を振り返った。
「そんじゃ、コナン。俺達、博士んトコ行ってお菓子貰って来っから」
「あぁ、行って来い」
 興味無さそうな声が返る。それに反応して平次も目を向けると、そこには今までのやり取りも目に入っていないのか、ソファの上で片肘をつきながら本に視線を落としているコナンの姿があった。
「コナンくん、本当に行かないの?」
 残念そうに声をかける歩美に漸くチラリと目を上げ、安心させるように笑う。
「ああ。俺、あまり甘いものって好きじゃないからな」
「美味しいのに、勿体ないですね〜…」
 光彦が哀れむような複雑な顔をする。子どもにしてみれば、甘いものが好きなのは当然のことで、それを好きではないというのは不思議で理解しがたいものなのかもしれない。
 まるで珍獣でも見るかのような視線に、コナンは居心地悪そうに僅かに眉を顰めた。
「あーもう、俺のことは良いから早く行って来いよ。さっさと行かねぇと、他の子達にお菓子全部持ってかれちまうぞ?」
 少々脅すように言うと、三人は大袈裟な程に慌てふためいて出て行った。
 平次は傍らを嵐の如く通り過ぎて行った後ろ姿を暫く見送っていたが、やがて力が抜けたように息を吐くと、しんと静まり返った室内に目を戻し。
 そして、じっと自分を見つめていたコナンの瞳に気付いてたじろいだ。
「な、何や?工藤……あ、久し振りやな〜…」
 ぎこちない笑顔を浮かべる平次をコナンは無表情に見つめる。眼鏡の奥の瞳がスッと細められる。
「おまえ、よくキャラメルなんて持ってたな」
 不機嫌そうな声音。いつも自分が来るとき大抵コナンはこんな感じだが、言われた言葉に平次は小首を傾げた。
「ん?あー、あれな、新幹線で隣になったオバチャンに貰たんや」
 キャラメルなんてもうずっと食べてへん〜何年振りやろ?と楽しそうに話す平次に、ますますコナンの瞳が温度を低くする。
 コナンは無言でポンポンと自分の隣を叩いて平次を呼ぶと、大人しくやって来た平次が座ると同時に突然抱き付いた。驚く平次に構わず膝の上に跨る。
「折角のハロウィンだからな。悪戯させろよ。じゃなかったら、甘いもの寄越せ」
「は…はあ!?」
 意味がわからないと言いたげに目を見開く。しかし、そう言った後何も言わないコナンに徐々に冷静さを取り戻すと、手に持っていたキャラメルをコナンの目の前に差し出した。
「工藤って、甘いもん好きやなかったんとちゃうかった?」
 それでも、先程探偵団に渡したのが気に入らないのかと考えて小さな塊を握らせようとすれば、違うとばかりに振り払われた。
「そうだよ、好きじゃねぇよ」
「せやけど、おまえ、悪戯されたなかったら甘いもん寄越せ言うたやん」
 一体何がしたいのかと困り果てて眉を下げる。そんな平次にコナンは憮然として言い放った。
「誰がお菓子くれっつったよ?」
 どこか拗ねたような子どもっぽい言い草に、やっと平次は彼の言わんとすることを理解した。理解した途端、仄かに熱を持ち始めた頬を誤魔化すように、わざと呆れた顔をして見せる。
「……ホンマ、我が儘なお子様やなぁ…」
「何だと!?」
 ムッとしたように片眉を跳ね上げる彼に平次は微苦笑して、手にしていたキャラメルを自らの口に放り込み。
「しゃあないなぁ…。ほな、これで堪忍したってや」
 そう言うと、何か言いたげに開かれたコナンの小さな唇へとキャラメルの甘さを運んだのだった。







END




>>新平ver.





図書館へ     トップへ



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送